夜、都会でたった一日だけ雪が降ると、
もはや寂しさはなくなった。
白というのは、それだけで光っているように見える。
ひときわ哀しそうにも見える。
その白が寂しさを吸収して、
僕たちの狭い心の枠を、ほんのすこしだけ、
一ミリか二ミリくらい広げる。
その光に照らされたのは、子供と大人のあいだの、
ちょっぴりゆるんでぐずついた、陰影。
街灯ではない、滅んでいなかったのは。
僕の体温だった。
体温であり、記憶だった。
誰のものでもない、もしかしたら
自分のものでさえないかもしれない涙が、
熱を奪われても、泣いている。
涙が、泣いている。
白さが愛の象徴のように感じてしまった。
そうして、どこでもなくなった「ここ」が、
「ここ」になる。
冷たいことがこんなにも温かいなんて、
知らなかったなあ。
僕のなかにある街。
僕のなかで真っ白になっていく道々。
毎日、「今日」がふたたびやって来るということ。
覚えているということ。
自分がいつか滅ぶことを知っているということ。
すべてが白に覆われて、どこか遠いやさしさに
繋がっているといい。
神様、どうか僕を、置いていってください。