のら|詩

のら|詩

のら|詩

2022/2/20

春夏秋冬 川沿いにある桜の木の下の古びたベンチで いつも日向ぼっこをしている野良猫がいる 宇宙の片隅で 僕の世界の片隅で 自由気ままを吸っては吐き ひらがなの「の」みたいに体を丸めて眠っている
学校を蹴飛ばして帰るころになると 傾いた日に毛並みを照らされて目を瞑り うっとりと顔をふやかせているその小さな鼻先 体毛の先には光がきらきら浮遊している どういうわけかぽっかりと人が来ない時間帯で 僕とその猫はちょうどふたりきりで会うことができるのだ
カチャっとランドセルを開くと 猫は中の様子を伺ってするりと体をすべり込ませる だから教科書やノートがすくない日だと 僕は学校にいるあいだずっとこの遊びのことを考えてひとり楽しくなる たとえ荷物が多い日でも 中身をベンチの上に出し中に入れてあげるのだ
落ちていた細い枝でおちょくってみる 猫の手は空をきり体が僕のほうにすこし近づく ひとしきり遊んだあとで今度は僕のほうから手をのばし 頭や首の横をやさしく撫でる そんなとき さわやかなそよ風が吹くと最高だけれど 心臓をとくんと鳴らす寂しさもあったりする
人と人との冷えきったいさかいとか 欲しいものが買えないとか靴下に穴が空いたとか 友達とのこととか そういう事柄をまったく背負ってなくて 空を漂うまっしろな雲みたいに 気の向くままに歩き 眠っている猫
ねえ 僕たちは仲が良くなっているかい? 僕は君がしあわせになれるものを差し出せているかい? ときどき 雨の日なんかになると どこかで雨宿りをしている君にそんなことを思って 僕はとても不安になる 君が風邪をひかないでいてほしいってことも
魔法でつくられたような猫 自由の象徴みたいな猫 いつしか君はいなくなってしまった いつもの時間に行くとベンチはぽっかりとしていて 人びとが右に左に通りすぎて行った 僕は世界一しあわせな迷子だったのに
僕はベンチに腰をかけ 足をぶらぶらさせて青空を見上げた 雲の白さに祈りを託して

匿名で質問やリクエストを送る

※登録・ログインなしで利用できます

メールアドレスだけでかんたん登録

  • 新着記事を受け取り見逃さない
  • 記事内容をそのままメールで読める
  • メール登録すると会員向け記事の閲覧も可能
あなたも Medy でニュースレターを投稿してみませんか?あなたも Medy でニュースレターを投稿してみませんか?